AHA 心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドライン2010

2010 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science

2nd November 2010

Part 12: Cardiac Arrest in Special Situations

Part 12.9:Cardiac Arrest in Accidental Hypothermia

2010 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care

Accidental Hypothermia

AHA 心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドライン2010
第12章:特殊な環境での心停止
偶発性低体温症

Terry L. Vanden Hoek, Chair; Laurie J. Morrison; Michael Shuster; Michael Donnino; Elizabeth Sinz; Eric J. Lavonas; Farida M. Jeejeebhoy; Andrea Gabrielli

Key Words: cardiac arrest • defibrillation • emergency

訳(文責):UK DIMM 大城和恵 2010.12.1

第12章:特殊な環境での心停止 偶発性低体温症

故意でない偶発的な低体温症は深刻ではあるが防ぎうる健康問題である。重症低体温症(体温30℃[86°F])では、生死をわける臨界点の身体機能が著しく抑制されるため、傷病者の初期評価において、臨床的に死亡しているようにみえることがある。それゆえ救命処置は、傷病者が明らかに死亡していない限り(死後硬直、腐敗、体の離断、切断など)、開始されるべきである。傷病者は、蘇生施行と併行して積極的な復温が可能な施設へ、可及的速やかに搬送されなければならない。

偶発的低体温症への初期対応

傷病者が非常に冷たいが、血液循環を可能にする心臓の動きが維持されている(脈あり)時は、救助者はさらなる熱喪失の防止の処置に焦点をあて、直ちに傷病者の復温を開始すべきである。以下に追加する処置も含めて示す。

  • 濡れた衣服を脱がし、環境からの寒冷暴露から隔離し、蒸発によるさらなる熱喪失を防ぐ。>34℃[93.2°F]の軽度低体温症では受動的復温が一般的に適する。
  • 血液循環を可能にする心臓の動きが維持されている(脈あり)34-30℃[86-93.2°F]の中等度低体温症では、体外加温が適する。受動的復温のみでは不十分であろう。
  • 血液循環を可能にする心臓の動きが維持されている(脈あり)<30℃[86°F]の傷病者では、積極的体外加温が成功して来たとのいくつかの報告があるけれど、体内加温がしばしば用いられる。積極的体外加温方法には、加圧式や有効な体表加温デバイスを含む。
  • 心停止した重症低体温症患者では心肺バイパスで迅速に復温すべきである。そのほかの体内加温方法として、温水での胸腔洗浄、部分バイパスで血液を体外加温する方法がある。
  • 付加的な体内加温方法として、加温した静脈あるいは骨髄輸液、加温加湿した酸素投与がある。これらの方法による熱移動は迅速ではないため、積極的加温の補助的役割として考えるべきである。
  • 気道マネージメントと静脈確保のように必要な処置は、心臓が不安定ではあるけれど、遅れないように実施する。30℃[86°F]以下の重症低体温症に対し、これ以上の治療を現場でするかは議論のあるところ。現場では、核心温の測定したり、積極的な加温を確立する時間や設備がないであろう。

BLS 変更点

低体温の傷病者では、脈と呼吸数が減少あるいは検知困難になり、心電図は心静止を示すかもしれない。もし低体温症傷病者が生命兆候無しなら、遅れることなく心肺蘇生を開始する。もし傷病者が呼吸をしていなければ、直ちに人工呼吸を始める。

重症低体温症患者へ、最初に除細動をすべき体温・除細動の回数は確立していない。重症低体温症では抵抗性の心室性不整脈の症例報告がある。しかしながら、最近の動物実験では、正常体温で心停止している動物への除細動よりは、30℃前後の動物への除細動の方が良好な反応が得られたことがわかっている。

もし心室頻拍、心室細動があれば、除細動を試みるべきである。1回のショックで除細動できなかった時、目標とする体温に復温するまで除細動の再施行を延期する意義は不確定である。復温を試みながら、同時にBLSアルゴリズム(2分毎)にのっとり、さらに除細動を施行する事も理に叶っているかもしれない。

核心温のさらなる低下を避けるため、濡れた衣服を取り除き、さらなる環境への暴露から保護する。これらは可能な限り、BLS治療の開始から併行してなされるべきである。復温は実行できるなら、試みるべきである。

ACLS 変更点

反応が無いあるいは心肺停止の患者には、高度な気道確保器具の挿入が、標準的なACLSガイドラインと同様に適している。高度な気道管理は加温加湿による効果的な換気を可能にし、心肺停止に近い状態の患者の誤飲の恐れを減らしうる。

低体温症の心停止におけるACLS管理は、第一の治療戦略として、積極的な能動的体内加温処置に焦点をあてる。従来の見識は低体温の心臓は心血管作動薬、ペースメーカーによる電気刺激、除細動へは反応しないであろうと指摘されて来た。これは基本的に理論的であるとデータは支持している。さらに、薬剤代謝は低下し、反復する心血管作動薬投与により、末梢循環で薬剤が蓄積し中毒域に達する恐れがある。これらの理由から、先のガイドラインでは核心温が30℃[86°F]未満では、薬剤静脈投与を延期するよう提唱している。

この10年で多くの動物実験がなされ、従来の知見のいくつかの正当性を疑わせる昇圧剤や抗不整脈薬の評価がなされてきている。これら研究のメタアナライシスで、Wira等は、昇圧剤(エピネフリンやバソプレッシン)がプラセボに比し、自己心拍再開率を上げていることが発見している(62% versus 17%; P<0.0001, n=77)。冠動脈の還流圧はプラセボ群より昇圧剤投与群で増加していた。しかし抗不整脈薬投与群では、コントロール群と比し、サンプルは相対的に小さいけれど、自己心拍再開率の改善は認めなかった(n=34 and n=40, それぞれ)。

小動物実験で、標準的な正常体温のACLSアルゴリズムを両薬剤投与(エピネフリンとアミオダロン)と除細動を施行した群では、除細動のみのプラセボ群と比し、自己心拍再開率の改善を得た(91% versus 30%; P < 0.01; n=21)。ヒトの試験では、心停止中の薬剤使用による蘇生は報告されて来ているが、偶発的低体温症での薬剤使用の試験は存在しない。

ヒトにおけるエビデンス不足と、相対的少数の動物実験からでは、薬物投与か延期かの勧告は明白ではない。復温計画と併行し、標準的なACLSアルゴリズムにのっとった昇圧剤投与を考慮するのは合理的かもしれない(Class Ⅱb, LOE C)。

自己心拍再開後

自己心拍再開後も、患者は約32-34℃の温度を目標に加温継続されるべきである。これは、誘発性低体温症の軽度から中等度患者への標準的心停止後ガイドラインに従って継続されうる。誘発性低体温症の適応禁忌項目を有する患者には、正常体温まで復温を続ける。

なぜなら、重症低体温症はしばしば他の障害が先行している(薬物中毒、アルコール摂取、外傷など)、医師は低体温症の治療と同時に、これらの潜在する状態を探し治療しなければならない。

蘇生努力の保留と中止

偶発的な低体温症傷病者が、CPRの延長や、CPR休止後にも生存したという多数の症例報告が有る。このように重症の偶発的低体温症や心停止を有する患者でも、CPRの延長や休止の場合でさえ、蘇生術による利益を得るかもしれない。血清カリウム値が低ければ、心停止の原因が、低酸素血症でなく、低体温症の可能性を示しうる。このため復温がなされるまでは死亡判定をすべきでない。

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